東洋医学(鍼灸の技術)の特徴は『不定愁訴』や『痛み』へアプローチできることです。
しかし「アプローチできる」といわれても
「実際にどのツボを使ったらいいの?」
といった悩みがありますよね。
とくに学生の方や臨床に出たばかりの先生であれば、学んだ知識をうまく活用できずに落ち込むことも。
そこで今回の記事(その③)では、痛みを訴えるすべての患者さんにつかえる万能なツボ『四関穴(しかんけつ)』を紹介いたします。
すでに臨床で活躍されている先生はもちろん、学生の方にとっても復習にもなる内容です。
まずは基本をかためて、目の前の患者さんや日頃の勉強に役立ててください!
✔その①の内容
西洋医学で対応できない不定愁訴の改善が見込める=東洋医学の特徴
✔その②の内容
東洋医学にもとづいた臨床事例(尿路結石、足関節捻挫)
東 洋史(あずま ひろふみ)
『国際中医師』の資格を持つ数少ない鍼灸師。
電子書籍『東洋のチカラ』はAmazonランキング1位を獲得。医学レベルの知識を持つ鍼灸師育成に力を注いでいる。
復習:痛みに対する東洋医学的な考え
東洋医学的な痛みの原因=不通則痛
『気の滞り(気滞)』や『血流の悪化(瘀血)』が痛みの原因
不通則痛をとりのぞくには
通経活絡=経絡を流れる気を通して(流れを促進して)活性化することで『痛み』がとれると考えます。
痛みを訴える人につかえる万能ツボ『四関穴』
合谷 | 太衝 | |
所属経絡 | 手の陽明大腸経 | 足の厥陰肝経 |
四関穴における 穴性 | 気関(※) | 血関(※) |
穴性 | 原穴 | 原穴、兪土穴 |
東洋医学における臨床では、痛みを抑えたい場合『四関穴』を使用します。
四関穴=合谷と太衝の組み合わせ
『四関穴』とは、合谷と太衝の組み合わせを指します。
『関』とは?
東洋医学における『関』は、銃の引き金(トリガー)のようなイメージです。『小さな力で大きな動き』を生み出す作用があります。
合谷と太衝の組み合わせにより気血の流れが改善=不通則痛の改善
『気関=合谷』『血関=太衝』の組み合わせにより気血を流す効果が倍増
不通則痛の改善には、最適の配穴といえます。
【重要】四関穴3つの役割
四関穴:3つの役割
- ちいさな刺激で気や血に大きな『動き』をあたえられる
- 気血の流れを改善する
- 不通則痛を改善できる
上記のような理由から、痛みに対しては四関穴でもある合谷と太衝がよく使われます。
合谷=気関:気の流れを促進
合谷へのちいさな刺激で……
滞っている気に強く働きかける→気の流れを改善
手太陰肺経の裏経の原穴でもある合谷=気に作用する力が強い
手太陰肺経
肺は『全身の気』を管理する臓器=気に対する作用が強い
手陽明大腸経
- 手太陰肺経の裏経のため気に作用する経穴が多い
- 原穴にあたる『合谷』は全身を流れる原気に作用=気の流れを促す力が強い
合谷に刺鍼した時に起きた体の反応(東先生のコメント)
ストレスで気滞が生じている患者様の合谷に刺鍼すると、すぐにお腹が「ゴニョゴニョ」と鳴ります。
滞っていた気が動き出した音です。
鍼1本で『気滞に即効性がある=気の動きの変化』を実感しやすい合谷は、まさに『気関』と呼ぶにふさわしい経穴です。合谷をうまく活用して、無形の気に『動き』をあたえましょう。
太衝=血関:血の流れを促進
太衝へのちいさな刺激で……
滞っている血に強く働きかける→血の流れを改善
原穴としての役割
三焦の元気に通じる=流れを改善
兪土穴としての役割
流れを促進して体重節痛を改善
※体重節痛=体が重くて節々が痛む様子
足厥陰肝経に刺激→手厥陰心包経に作用する
足厥陰肝経の太衝への刺激により、同名経の『手厥陰心包経=循環器系』に動きを与えます。
直接、手厥陰心包経に刺激をくわえない理由は?
手の厥陰心包経には『血関』と呼ばれるような、血流を促進する経穴が存在しない
⇓⇓
血(血液)を身体の隅々まで
行きわたらせるのは『肝』の役割
血流悪化による不通則痛を改善したい→疏泄機能を高める
血流悪化による不通則痛を改善するためには、肝の疏泄機能を高めるのが近道です。
学校の授業でも、血は『全身の筋肉及び器官を滋養する』と習ったと思います。
ただし、通常の血行不良が原因の症状の他に『心神不安』など『神』に関する症状が診られれば、太衝に内関を加えると良いでしょう。
疑問:手厥陰心包経の役割とは?
手厥陰心包経の経穴は、血を流すよりも動悸などの『循環器系の疾患』によく使います。
実際の症例:耳鳴りのケース
東洋医学的な診断と配穴により、筋肉疾患以外の疾患に対応できた事例を紹介させていただきます。
- 主訴:耳鳴り
- 原因:気滞
- 治療内容:四関穴(合谷・太衝)を中心に配穴
- 目的:気血の流れをよくする
- 性別:女性
2回目の治療のときには「前回の治療で耳鳴りが消えた」とお喜びの声をいただきました。
その後も、仕事が多忙の際は耳鳴りが時々出ていましたが、いまでは完治したと確認しております。
耳の疾患に使う経穴でもある『翳風』や、腎経の経穴(腎は耳に開竅する)を使うことなく改善したケースでした。
他の症状にも四関穴は使えるの?
今回ご紹介した四関穴は『気滞』が原因となる痛みに対して有効です。
気滞による痛み
- 遊走痛(痛む部位が固定しない)
- 脹痛(痛みより脹りの方が強い)
気滞により血流悪化=血瘀による痛み
- 刺痛
- 固定痛
- 夜間痛
気滞により津液の流れが低下=痰湿による痛み
- 酸痛
- 重痛
まとめ:痛みを訴える人につかえる万能ツボ『四関穴』
四関穴とは?
『四関穴』とは、合谷と太衝の組み合わせを指します。
四関穴:3つの役割
- ちいさな刺激で気や血に大きな『動き』をあたえられる
- 気血の流れを改善する
- 不通則痛を改善できる
合谷へのちいさな刺激で……
滞っている気に強く働きかける→気の流れを改善
太衝へのちいさな刺激で……
滞っている血に強く働きかける→血の流れを改善
鍼灸院に来院される患者様は、ほぼ全員『痛み』に悩んでおり、原因のおおくはストレスによる『肝鬱気滞』です。
もちろん、四関穴だけで全ての痛みが完治するわけではありませんが、合谷・太衝に置鍼しながら患部の治療を行えば効果が高いだけではなく、その他の「肝鬱気滞」が原因の症状も同時に改善できるのです。
臨床で活用していただき、ひとりでも多くの患者様の苦しみを和らげてあげてください!
✔その①の内容
西洋医学で対応できない不定愁訴の改善が見込める=東洋医学の特徴
✔その②の内容
東洋医学にもとづいた臨床事例(尿路結石、足関節捻挫)
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